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第2章:バッドエンドへの道 1

作者: 社菘
last update 最終更新日: 2025-06-29 08:00:12

 食堂での一件以来、セナには本当にノアの口添えで王宮のマナー講師がついたらしい。ノアがセナに対してアクションを起こしたことで、学園内では二人の婚約が現実的になってきたという噂が流れるようになった。

 たったそれだけのことでと思うけれど、貴族の令嬢や令息は婚約者探しには忙しいがそれ以外は所詮暇なのだ。噂話やゴシップが大好きで、ネタになりそうなことを探しては話を盛って噂を流す。ノアの婚約者の席を狙っていた人たちはセナの登場で、自分には勝ち目がないと諦めたらしい。

「ベルティア、おはよう。ちょうどよかった、会いたいと思っていたんだ」

「おはようございます、パーシヴァル殿下」

「ああ。少しいいかい?」

「もちろんです」

 生徒たちが登校してくる前、朝早くの図書室。ベルティアがいつもの席で読書をしていると、同じように朝早くやってきたパーシヴァルが向かいの席に座った。

「今度、セナ殿のお披露目パーティーがあるから参加してほしいと言われたんだけど、ベルティアは行く予定?」

「あー…俺はあまりそういう場は好きではなくて……」

「そう言うと思った。ただ、無理を承知で頼みたいことがある」

「なんですか?」

「僕のパートナーとして一緒に出席してくれないか?」

 パーシヴァルからの予想外の申し出にベルティアは固まった。ベルティアとパーシヴァルは図書室で会えば話す仲ではあったけれど、まさかパーティーの同伴を頼まれるとは思わなかったのだ。ただ、隣国の王太子からの申し出を断れるほどベルティアは偉くないし、馬鹿正直に「無理です」と言うと不敬罪になるだろう。

 ベルティアが返答に困っているとパーシヴァルもそれを察したようで、ぽりぽりと頭を掻きながら苦笑した。

「突然すまない」

「い、いえ……でも驚きました」

「実は、パートナーとしてオリヴィア・ローズウッド嬢を推薦されているんだ」

 パーシヴァルの口から出てきた名前にぴくりと反応する。オリヴィア・ローズウッド、まだ会っていない最後の攻略対象者。ローズウッド侯爵家の一人娘で、ノアかライ

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    「お披露目パーティーって疲れちゃいますね。もっと楽しいものかと思ってたんですけど……挨拶するばかりであんまり楽しくないです」「もうすぐダンスが始まるでしょうから、この機会に色んな方と踊られてみては?」「ダンスといえば、ノア様にご紹介していただいた先生がとても厳しくて……」《セナ・フェルローネ 好感度:87%》《ノア・ムーングレイ 好感度:80%》 セナは最後に会ってから3%減、ノアに関してはこのパーティー会場で会ってすぐ、83%だったものが80%に落ちた。予想でしかないのだが、ベルティアがパーシヴァルのパートナーとして入場してきたからだろう。 なんせベルティアは今までどんな小規模なパーティーだとしても、彼からの申し出は断っていたのだから。ノアにしてみれば自分の申し出は断るのに他の男の申し出は受けるのかと、好感度が下がる気持ちも分かる。「すみません、夜風に当たってきます」 パーシヴァルとのダンスを終えたあとベルティアは会場を抜け出して、庭園の噴水に腰掛けた。満月が水面に映って揺れる様子を見つめながら、久しぶりに参加したパーティーの疲れを実感する。装飾品がついている服は異様に重いし、肩も凝る。きっと明日は全身筋肉痛だろう。「――ベル」 涼しい風がベルティアの頬を撫で、その風に乗ってきた声の主を確認したベルティアはそっと視線を逸らす。ベルティアと一瞬目が合ったあと、ノアはゆっくりとこちらに近づいてきた。「お前がこういうパーティーに出席するとは驚いた。来るつもりだったのならパートナーの申し出をしたらよかったな」「……パーシヴァル殿下からの申し出だったので、仕方なくお受けしただけです。そうじゃなければ来ませんでした」「そうだよな。ベルは俺の生誕パーティーにすら出てくれないのだから」「嫌味を言うためだけに来たのなら、お帰りください。こんな場所で二人でいるのを見られたくないです」「ベルティア・レイク」 噴水の縁に腰掛けていたベル

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     ベルティアとノアが出会ったのは、二人が7歳の時。 ノアは幼い頃は体が弱く、一時期は王都を離れ田舎の領地で療養していた時期がある。療養先はオリヴィア・ローズウッドの祖父が治めるローズウッド領で、そこに向かっている途中でノアの体調が悪くなり馬車を止めたのが運の尽き。 ローズウッド領に行くまでの道のりにはレイク男爵家が管理している村があり、夏でも涼しい森の中の泉で一休みしていたノアとベルティアが出会ったのが始まりだ。「ねぇ、どうしたの? 具合が悪いの?」「あ、えっと……」 ベルティアが日課であるお祈りをするために泉を訪れると、綺麗な顔をした男の子・ノアが項垂れていた。周りには誰もいなくて、食糧か何かを取りに行ったのか、ノアが一人になりたいと言ったのかは分からない。でもタイミングが良いのか悪いのか、ベルティアがそこに現れてしまったのだ。 きっとここで出会わなければ、今頃二人とも全く違う道を歩んでいたかもしれない。いや、正確にはベルティアだけは、違う道を歩んでいただろう。「待ってて、人を呼んできてあげる!」「い、いいんだ! 少し休めばよくなるから……」「そう? あ、お水持ってるよ! 飲める?」「う、うん……ありがとう」 王子たる者、見知らぬ人からもらう物には気をつけないといけない。ノアはそういうところはしっかりしているが、この時ばかりはベルティアの優しさに縋りたくもなるほど弱っていたのだろう。ベルティアがバッグから取り出した水をごくごく飲んだノアの顔色は徐々によくなっていって、額に滲んでいた汗もいつの間にか引いていた。「ここ、涼しいね」「そうでしょ! 女神様の魔法がかかってるんだよ」「女神様の魔法?」「うん。泉の神様! 具合がよくなるようにお祈りしてあげるね」 いつでも青白く光っている水面に向かってベルティアは手を合わせながら目を瞑り、具合が悪そうな少年のために祈りを捧げた。そんなベルティアのほうが

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    「……まぁ、見て! どうしてあのメンバーの中に男爵家の人間が混じっているのかしら?」 「あら、本当……身の程知らずもここまできたら滑稽よね」 ――そんなことは自分が一番分かってる。 食堂に来ると案の定、周りからヒソヒソと陰口を言われているのがベルティアの耳に届いた。ベルティアの耳に届くということは他の人にも聞こえているだろうけど、全員なにか訓練でも受けているのかというほど気にしていなかった。「……ジェイドは俺の隣。絶対に離れないで」 「えっ、あ、ああ。分かった」  《好感度:67%》 ジェイドは昨日せっかく64%まで落ちたのに、今の言葉で3%も上がってしまった。ベルティアはただ、できるだけ平穏に過ごせる人の隣を選んだだけだったのに、そんな些細なことだけで好感度が上がるとは思わなかったのだ。  ……ということは、好感度が表示されていない人を選んでいれば、他の攻略対象者の好感度が上がることはないのではないか?「パーシヴァル殿下、お隣よろしいでしょうか?」 「ああ、もちろん。いつも図書室では向かいの席だから新鮮だな」 「ですね」 パーシヴァルが相手だと、好感度を気にしなくてもいいので楽だなということに気がついた。ただ必然的にベルティアがジェイドとパーシヴァルに挟まれる席順になり、向かいの席はムスッとした顔のノアと気まずそうなライナスに挟まれている笑顔のセナ。結果的にはこの席順でよかったと思うけれど、なんせ目の前にいるセナのキラキラオーラでベルティアの目は潰れそうだった。 ただ、ベルティアはこれをチャンスだと思うことにした。なんせ今、オリヴィア以外の攻略対象者がこの場に集まっているのだ。ベルティアがここでセナに対して嫌がらせや嫌味を言えば『悪役令息』だと全員から認知してもらえることを期待した。「ノア殿下は鍛えていたりするんですか? 二の腕とか僕の二倍はありますね」 「ああ、まぁ……それなりにだ」 「へー! 僕も鍛えたら殿下のようになれますかね?」 「君は……どうだろうな。元が華奢だからあまり筋肉はつかない

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     ランチの時間になり、ベルティアは食堂に移動するためにそそくさと席を立つ。サッと食事を済ませて朝と同じように図書室に籠ろうと企んでいた罰が当たったのか、食堂に行くまでの曲がり角で誰かと勢いよくぶつかった。「い、った……!」 「わわわっ、ごめんなさい! って、ベルティア先輩!? 本当にすみません、大丈夫ですか!?」 「げっ、セナ様……!?」 前世の記憶に残っている、一昔前の少女漫画のような展開にベルティアは尻餅をついたまま固まった。そして思わず「げっ」と言ってしまったことに気がつき急いで口元を手で覆ったけれど、もう出てしまったのであまり意味はない。 ベルティアを起こそうと手を差し出しているセナの頭上を見るとやはり好感度の数値が表示されていて、昨日のことは見間違いではなかったのだなと認識した。「(あれ? 昨日は確か96%だったのに……90%に下がってる)」 ベルティアの部屋に突然やってきて嵐のように去っていた彼の好感度に変化はなかったはずだが、一夜にして6%も数値が下がっていた。ただ、これは好感度を100%にする世界ではない。好感度0%を目指しているベルティアにとって、よく分からないが数値が下がっているのは幸運としか言いようがなかった。「僕が前を見ていなかったせいで……ごめんなさい。怪我はないですか?」 「大丈夫です、お構いなく……セナ様はどうしてこちらに? 3年生の棟ですが」 ベルティアやノアは18歳で最終学年だが、セナは2歳年下の16歳で1年生のクラスに編入してきたのだ。全学年クラスがある棟は違うので本来ならここで会うはずがない人物。しかもゲームでは曲がり角でベルティアとぶつかる、なんていうイベントは――「(いや、違う。ノア様をランチに誘うために来たのか)」 婚約の話が出ている二人はセナが編入してくる前から顔見知りで、学園内に友人がいないセナはノアを頼りながら他のキャラたちと交流ができる。今日は手始めにノアをランチに誘うことから始めるイベント発生の日。失念していたベルティアも悪いけれど、まさかこんなタイミングで出会うと思っていなかった

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